見積もりが遅いのは計算のせいではなく、前提が固まっていないから
- 見積もりを出すまでに何日もかかっている経営者・営業担当
- 見積書のテンプレートを整えたのに、速くならなかった人
- AIで見積を自動化できないか検討している人
「見積もりを出すのが遅い」という相談を受けます。
話を聞くと、たいてい対策はもう打たれています。テンプレートを作った。単価表をまとめた。Excelに計算式を入れた。それでも、依頼から提出までの日数は変わっていません。
理由は単純です。遅れているのは計算ではないからです。
見積作成の時間は、どこで消えているか
一度、実際の時間の使われ方を見てみてください。多くの現場で、こうなっています。
- 数字を計算している時間:30分
- 資料をきれいに整える時間:30分
- それ以外の時間:3日
その3日は、何をしているのか。待っています。
- お客様に条件を確認する連絡を送って、返事を待っている
- 社内の誰かに「これいくらでいける?」と聞いて、返事を待っている
- 似た案件の過去見積を探している
- 値引きしていいかどうか、上長の判断を待っている
計算は30分です。3日は、前提が決まるのを待っている時間です。
だから、計算を速くする道具をどれだけ入れても、提出までの日数は変わりません。手をつける場所が違います。
前提が決まらないまま数字を作ると、二度手間になる
前提が固まらないうちに数字を作り始めると、こうなります。
想定でいったん作る。お客様に出す。条件が違うと言われる。作り直す。また出す。今度は社内の判断が入る。また直す。
一度で終わらないから遅いのです。一回あたりの作成時間ではありません。
そして、作り直しのたびに、数字だけでなく信頼も少し減ります。「前回と金額が違う」と言われるからです。理由を説明できればいいのですが、前提が書かれていないと説明できません。
つまり、前提を固めないことは、時間だけでなく説明可能性も失わせます。
先に固める三つの前提
では、何を先に決めるのか。tugiloが現場で使っているのは、この三つです。
1. 範囲:どこからどこまでか
どこまでが今回の見積に含まれ、どこからが含まれないか。含まれないものを書くほうが大事です。
「〇〇は含みません」を三つ書けるか。書けないなら、範囲は決まっていません。あとで「これも入っていると思った」が起きます。
2. 前提条件:何が変われば金額が変わるか
数量、期間、既存の環境、支給される情報。このうち、変わると金額が変わるものを挙げます。
これを先に書いておくと、条件が変わったときに「前提が変わったので再見積です」と言えます。書いていないと、追加費用の相談が値上げの相談に見えてしまいます。
3. 判断の持ち主:誰が決めれば確定するか
値引き、支払い条件、納期。それぞれ、誰が決めれば確定するのかを先に決めます。
見積が止まる原因の多くはここです。金額は出ているのに、「これで出していいか」の判断待ちで数日たつ。判断の持ち主を先に決めておけば、その待ち時間は消えます。
この三つが決まっていれば、計算は30分で終わります。決まっていなければ、どんな計算ツールを入れても3日かかります。
「概算でいいので早く」に、どう答えるか
現場でよくあるのが、「概算でいいので、とにかく早く出してほしい」という依頼です。
ここで、前提を飛ばして数字だけ出すと、あとで必ず揉めます。概算のつもりが、相手の中では予算になっているからです。
早く出すこと自体は正しい。順番を変えるだけです。
概算をお出しします。ただし、この三点が変わると金額が変わります。(範囲・前提条件・確定に必要な判断)
数字と一緒に、前提を渡す。 これだけで、概算は概算のまま扱われます。数字だけを渡すと、概算は確定として扱われます。
速さと正確さは、対立していません。対立して見えるのは、前提を省いているからです。
AIで見積を自動化する前に
見積の自動化は、相談の多いテーマです。過去の見積を学習させて、似た案件の金額を出せないか、と。
技術的には可能です。ただ、順番を間違えると効きません。
自動化が効くのは、前提が決まったあとの計算部分です。前提が固まっていない状態で自動化すると、もっともらしい数字が速く出てくるだけで、作り直しの回数は減りません。むしろ、根拠を説明しにくい数字が増えるぶん、確認が増えることもあります。
もしAIを使うなら、まずここから試してください。
この案件の説明文を読んで、見積を作るために足りていない情報を、質問の形で挙げてください。金額は出さなくて構いません。
金額ではなく、足りない前提を挙げさせる。これは効きます。人が聞き漏らす条件を、驚くほど拾ってくれます。
作る前に何を決めるかで結果の大半が決まる話は、システムは「作る前」に8割決まっているという話でも書きました。見積も同じ構造です。
見積が速い会社が、実際にやっていること
見積が速い会社を見ていると、共通点があります。金額を出すのが速いのではなく、決まっていないことを見つけるのが速いのです。
依頼を受けたその日のうちに、こう返します。
ご依頼ありがとうございます。お見積のために、三点だけ確認させてください。(範囲・数量・希望時期)
この一往復を最初にやるかどうかで、提出までの日数が変わります。あとから確認すると、そのたびに作業が止まります。最初に確認すると、止まらずに進みます。
速さの正体は、確認の早さです。 計算の速さではありません。
数字の前に、決めごとがある
見積書は、数字の書類に見えます。実際には、決めごとの書類です。
どこまでやるか。何が変われば変わるか。誰が決めれば確定するか。この三つが書かれていれば、金額はその結果として出てきます。三つが書かれていない見積書は、金額が書かれていても、まだ何も決まっていません。
だから、見積が遅いと感じたときに見直すのは、テンプレートでも計算式でもありません。依頼を受けた最初の一時間に、何を確認しているかです。
ここを変えると、見積は速くなります。そして、作り直しが減るぶん、出した数字への信頼も上がります。
見積の前に、決めごとの整理から——tugiloは、ツールの前に「判断の設計」から入ります。見積プロセスの見直しも、確認項目の型づくりも、お気軽にご相談ください。