AIを入れる前に、やめる仕事を一つ決める

この記事はどんな人向けか
  • AIを導入したのに、忙しさが変わっていない経営者・現場責任者
  • ツールは増えたが、業務は減っていないと感じている人
  • 次のAI導入を検討していて、今度こそ効かせたい人

AIを入れました。使い方も覚えました。作業は速くなりました。

それなのに、忙しさが変わらない。

この話は、業種を問わず聞きます。原因は、たいてい一つです。速くなった分の時間に、別の仕事が入っただけだからです。

空いた時間は、放っておくと埋まる

作業が速くなると、時間が空きます。空いた時間は、意識して守らないと、必ず何かで埋まります。

  • 今までやりたくてもできなかった集計を、やるようになった
  • 資料の見た目を、もう少し丁寧にするようになった
  • 報告の頻度を、週一から週二に増やした
  • 空いた人手で、別の案件を受けた

どれも悪いことではありません。けれど、総量は減っていません。 むしろ増えていることもあります。

これが「AIを入れたのに楽にならない」の正体です。道具の性能の問題ではなく、足すだけで引いていないという設計の問題です。

「効率化」は、量を減らすとは限らない

効率化という言葉は、時間が減ることを意味しているように聞こえます。実際には、単位あたりの時間が減るだけです。

単位あたりが減っても、単位の数が増えれば、総量は変わりません。

たとえば、報告書1本の作成が60分から20分になったとします。すばらしい改善です。ところが、速くなったので報告書の本数が週3本から週9本になった。総時間は180分のままです。

改善はしているのに、楽になっていない。 この状態は、数字の上では成功に見えるので、なかなか気づけません。

負荷が消えたのではなく別の場所に移っただけ、という現象は、AIツールを増やすほど現場が疲れる理由でも扱いました。今回の話は、その負荷が「同じ人の別の仕事」に移るパターンです。

導入の前に、やめる仕事を一つ決める

そこで、順番を変えます。導入の前に、やめる仕事を一つ決めます。

一つで十分です。三つ挙げようとすると、たいてい決まりません。一つに絞ると、決められます。

決め方は、こうです。

1. その仕事が止まったとき、誰が困るかを書く

困る人がすぐ思い浮かばないなら、それは候補です。習慣で続いているだけの可能性があります。

2. 困る人が「自分だけ」なら、やめられる

安心のためにやっている確認作業、念のための集計、見られていない資料。ここは、たいていやめられます。

3. 困る人が他にいるなら、頻度を落とせないかを見る

毎日を週一に。全件を抽出に。毎回を初回だけに。やめられないものは、減らせることが多い

そして大事なのは、やめると決めた仕事を、記録に残すことです。「やめた」と書いていないと、いつのまにか復活します。誰も止めていないのに、気づくと戻っている。これは本当によくあります。

やめられないときに見ているもの

「やめる仕事が一つも決まらない」と言われることがあります。全部必要に見える、と。

そのときは、判断の軸を変えてみてください。必要かどうかではなく、なくなったときに何が起きるかで見ます。

  • なくなると、翌日すぐ困る → 残す
  • なくなると、一ヶ月後に少し困る → 頻度を落とす
  • なくなっても、しばらく誰も気づかない → やめる

「必要か」で聞くと、ほとんどの仕事は必要に見えます。人は、自分がやっていることを不要だと言いにくいからです。問いを変えると、答えが変わります。

もう一つ、こういう見方もあります。その仕事は、誰かの判断を助けているか

助けているなら残す価値があります。ただ記録しているだけ、ただ集めているだけなら、その先で誰も判断に使っていない可能性があります。使われていないデータを作り続けるのは、いちばん静かな無駄です。

「やめる」を決めると、AIの選び方が変わる

やめる仕事を先に決めると、副産物があります。AIに何をさせるかが、はっきりします。

やめる仕事が決まっていないと、AIの用途は「全体的に効率化」になります。これは目標としては大きすぎて、評価もできません。

やめる仕事が決まっていると、こうなります。

  • 「この確認作業をやめる。その代わり、異常時だけ気づける仕組みが要る」
  • 「この集計をやめる。その代わり、月一の判断に必要な数字だけ出せればいい」

用途が具体的になり、必要な機能も絞れます。 高機能なツールが要らなくなることも多い。

何をもって完了とするかを先に決める話は、AIの価値を測る前に、その仕事の完了を一行で言えるかにも書きました。やめる仕事を決めるのは、その裏返しです。始める前に、終わらせるものを決める。

一つやめてから、次を入れる

進め方としては、この順番を勧めています。

  1. やめる仕事を一つ決めて、記録に残す
  2. 実際に一ヶ月やめてみる
  3. 困らなければ、そのまま。困ったら、頻度を落とす形で戻す
  4. 空いた時間が残っていることを確認してから、AIを入れる

4番の「空いた時間が残っていることを確認してから」が肝心です。ここを飛ばすと、また埋まった状態の上に道具を足すことになります。

そして、AIを入れたあとに、もう一度同じことをします。入れるたびに、一つやめる。 これを続けると、道具の数と業務の量が、同じペースで動きます。

増やすことより、やめることのほうが難しい

最後に、正直なことを書きます。

やめるのは、増やすより難しい。増やすのは前向きに見えますが、やめるのは後ろ向きに見えるからです。誰かが「必要だ」と言えば、たいてい残ります。

だから、やめる決定には持ち主が要ります。「これはやめる」と言える人を、先に決めておく。 そうしないと、やめる話はいつまでも会議の議題のまま残ります。

そして、やめた結果うまくいかなかったときに、決めた人を責めないこと。責めると、次から誰もやめると言わなくなります。人を責めず、設計に期待する。 やめる判断も、設計の一部です。

AIは、仕事を減らしてはくれません。減らすと決めた人の判断を、速くしてくれるだけです。だから、入れる前に一つ決めてください。やめる仕事を、一つだけ。

道具を足す前に、やめることを決める——tugiloは、ツールの前に「判断の設計」から入ります。業務の棚卸しも、AI導入の順番づくりも、お気軽にご相談ください。