- 部下やメンバーの評価をする立場で、AI活用が進んできた職場の人
- 「AIを使った成果は、その人の実力なのか」と迷ったことがある人
- 評価制度を変えるほどではないが、期末に説明できる状態にしておきたい人
期末の評価シートを前にして、手が止まることがあります。同じ役割の二人で、片方の成果だけが明らかに増えている。増えた理由を聞くと、本人も「AIで速くなった」としか言いません。
この迷いは、数字にも出ています。帝国データバンクが2026年5月14日に公表した調査(有効回答10,312社)では、生成AIを活用している企業に「悪影響やトラブル」を尋ねています。
最も多かったのは「ない」で67.7%。ここは安心していい数字です。
その次に来るのが、「能力や成果の格差が拡大」18.8%。情報流出は0.7%、出力の誤りによるトラブルは1.3%。桁が違います。
事故ではなく、格差。これが、今のところ一番よく起きている副作用です。
差が開くこと自体は、問題ではない
先に整理しておきます。差が開くこと自体は、悪いことではありません。
新しい道具を使いこなす人が先に成果を出すのは、自然なことです。表計算ソフトが入った時も、同じことが起きました。差が生まれ、しばらくして全体に広がり、差が縮みました。
問題は、差そのものではなく、差をどう扱うかを決めていないことです。
決めていないと、期末に判断を迫られます。そして期末は、判断するのに最も向かない時期です。目の前に具体的な人と具体的な数字があるので、どんな基準を出しても「その人のために作った基準」に見えてしまいます。
後出しの基準は、どちらに転んでも納得されない
差が開いてから基準を作ると、二つの道しかありません。どちらも痛みます。
成果をそのまま評価する場合
評価されなかった側は、こう受け取ります。「道具を早く覚えた人が得をする制度になった」。
反発の中身は、公平さの話に見えて、実は説明の欠如です。事前に「使いこなしも実力のうちだ」と言われていれば、納得はしなくても理解はできます。後から言われると、結果に合わせて理屈を作ったように見えます。
成果を割り引いて評価する場合
今度は、成果を出した側が離れます。「工夫しても、AIを使ったからと言われて評価されない」。
これは、AI活用が社内で止まる一番静かな理由です。禁止しなくても止まります。使っても得にならないと分かった人は、静かに使うのをやめるか、使っていることを言わなくなります。
言わなくなるほうが、実は面倒です。何がどう作られたのかが見えなくなるからです。
差が開く前に決めておく三つ
期末に迷わないために、先に決めておくことは三つです。制度を作り替える必要はありません。言葉にして、一度伝えるだけでも効きます。
1. 「速さ」を評価するのか、「空いた時間の使い道」を評価するのか
ここが曖昧なまま走ると、必ず揉めます。
速さを評価すると決めたなら、それでいい。ただしその場合、速い人にはもっと仕事が集まります。集まった結果として残業が増えたなら、それは評価ではなく配分の問題として別に扱う必要があります(AIを一番使える人に、一番仕事が集まっていないか)。
空いた時間の使い道を評価すると決めたなら、こちらのほうが筋は通ります。ただ、評価する側が「何に使ってほしいか」を先に言う必要があります。 言わずに「時間が空いたのに何もしていない」と評価するのは、無理があります。
tugiloが勧めているのは、空いた時間の使い道を見るほうです。理由は、速さは道具の性能に引きずられるからです。来年もっと速いモデルが出たら、速さの評価は意味を失います。時間の使い道は、その人の判断です。
2. 「使ったこと」を申告させるのか、させないのか
数名の会社なら、tugiloは申告させないほうを勧めます。申告を運用に載せるコスト(様式を作る、集める、読む)が、判断の速さを殺すからです。人数が増えて横展開の必要が出てきたら、そこで初めて申告を足せば足ります。
申告させないなら、成果だけを見ることになります。過程を問わない、と明言する。すっきりします。
申告させるなら、目的をはっきり伝えてください。 「評価を割り引くため」ではなく、「うまくいったやり方を横に広げるため」だと。目的を言わずに申告だけ求めると、現場は「監視だ」と受け取ります。そう受け取られた時点で、正直な申告は集まりません。
いちばん良くないのは、決めずに曖昧にしておくことです。曖昧だと、正直に申告した人だけが不利になります。正直な人が損をする設計は、必ず壊れます。
3. 「差が縮まらなかった場合」に、誰が動くのか
差は、放っておいても縮みません。縮むのは、誰かが広げる動きをしたときだけです。
だから先に決めておきます。半年後にまだ差が開いていたら、誰が何をするのか。
- 使えている人に、社内で共有する時間を割り当てる(そしてその時間を評価に入れる)
- 使えていない人に、学ぶ時間を業務として渡す
- どちらもしないと決める(それも一つの判断です)
決めておかないと、差は個人の努力の問題として片付けられます。片付けた瞬間、それは「人を責める」設計になります。差が縮まないのは、縮める仕組みが無いからです。
評価制度そのものがAI導入のブレーキになる話はAI導入が進まない会社に共通する「評価制度の壁」に書きました。あちらは導入前の障壁、こちらは浸透したあとに開いた差の扱いです。
「AIを使った成果は本人の実力か」への答え
現場でよく聞かれる問いです。答えを出しておきます。
成果物の質は、本人の実力です。
理由は、AIが責任を引き受ける判断をしないからです。どの依頼に使うかを選び、出てきたものを見て、使えるかどうかを決め、直すところを決めているのは人です。同じ道具を渡しても、出てくるものは変わります。その差が実力です。
ただし、条件が一つあります。その人が、出したものに責任を持っているかどうか。
出力をそのまま流して、間違いが出たときに「AIがそう言った」と説明する人がいたら、それは実力ではありません。判断をしていないからです。
だから、評価の線はここに引けます。
- 出したものに責任を持っている → 成果は本人のもの
- 出したものの説明ができない → 成果ではなく、通過しただけ
この線は、AIがあってもなくても同じです。AIが登場したから新しい基準が要る、という話ではありません。もともとあった基準が、見えやすくなっただけです。
責任が残るかどうかで仕事を分ける考え方は、AIに任せていい仕事と、人がやるべき仕事は「責任が残るか」で分けるにも書きました。評価も、同じ軸で見られます。
差の下側を、どう見るか
格差の話は、上側——うまく使っている人——に注目が集まります。実際に扱いが難しいのは、下側です。
使っていない人を「意欲が低い」と見ると、そこで思考が止まります。止まると、打つ手が「研修を受けさせる」しか残りません。
使っていない理由を分けると、少なくとも三つあります。
- 必要性を感じていない:その人の仕事に、AIが効く場面が実際に少ない
- 使い道が想像できない:効く場面はあるが、結び付いていない
- 失敗が怖い:間違ったものを出したときの責任が、自分に来ると分かっている
三つ目が一番多く、そして一番見えません。慎重な人ほどここで止まります。そして慎重さは、本来その職場が求めてきた資質です。
この人に「使いましょう」と言っても動きません。動くのは、失敗しても取り返せる範囲を、先に決めたときです。「この作業なら、間違っても社内で止まる」と分かれば、試せます。
評価の基準を決めるとき、上側の扱いだけを決めて終わらないでください。下側に対して「使っていないこと自体は評価に含めない。ただし、この範囲は試してほしい」と範囲を渡す。ここまでが一組です。
制度を変えなくても、今日できること
評価制度そのものを変えるのは重い作業です。人事の話になり、経営の話になり、半年かかります。
その前にできることがあります。次の面談で、一言伝えることです。
うちでは、AIを使ったかどうかで評価は変えません。見るのは、出したものに責任を持てているかです。うまくいったやり方があれば、共有してもらえると助かります。
これだけで、三つのことが同時に決まります。使ってよいこと。使ったことで不利にならないこと。共有には価値があること。
面談で言った内容は、記録に残してください。言っただけだと、半年後に「聞いていない」が発生します。制度でなくても、書いてあれば基準として機能します。
差が開いてから考えると、必ず遅い
格差の拡大を挙げた企業が18.8%(帝国データバンク、2026年5月14日公表)という数字は、まだ多数派ではありません。だからこそ、今が決めどきです。
自社でまだ差が開いていないなら、基準を出しても誰も自分のこととして受け取りません。特定の人を指しているように見えないからです。この時期の基準は、後から作った基準より、はるかに素直に受け入れられます。
差が開いてからでは、同じ言葉が別の意味を持ちます。中身が正しくても、タイミングで納得されなくなる。 評価の話は、そういう性質を持っています。
決めるのは、大がかりな制度ではありません。見る基準は「出したものに責任を持てているか」の一つで足ります。 速さも、申告の要否も、差が残ったときの動き方も、この一つが決まっていれば後から並べられます。
その一言なら、今日の面談で言えます。
評価が揉める前に、見る基準を先に決める——tugiloは、ツールの前に「判断の設計」から入ります。AI活用と評価のすり合わせも、社内共有の型づくりも、お気軽にご相談ください。