AI導入で一番最初に壊れるのは「ベテランのやり方」だった

この記事はどんな人向けか
  • AI導入でベテランが困惑している経営者・現場責任者
  • 「人がついてこられるか」を心配している担当者
  • ベテランの暗黙知とAIの関係を整理したい方

AIを導入するとき、相談に来る方の多くが最初に心配するのは「現場は使ってくれるだろうか」「ITが苦手な人がついてこられるだろうか」です。

でも、実際に現場で起きるのは、少し違うところからのつまずき。 AI導入で一番最初に困惑するのは、新人でも若手でもなく、ベテランのやり方だったというケースは少なくありません。


ベテランが悪い、という話ではない

最初に大事なことを言っておきます。

これは、ベテランが悪い、変化を嫌っている、という話ではありません。むしろ逆です。

ベテランほど、現場を知っている、判断が速い、イレギュラーに強い。 だからこそ、AI導入と衝突しやすいのです。


ベテランの仕事は「言語化されていない」

ベテランのやり方には、共通点があります。

  • 判断基準を言葉にしていない
  • 状況を見て「感覚」で決めている
  • 毎回少し違う判断を、自然にやっている

本人にとっては当たり前でも、それは長年の経験が積み重なった結果です。 一方、AIはルールが必要、入力が必要、判断条件が必要。

つまり、暗黙知のままでは扱えない。この瞬間に、摩擦が生まれます。


AIは「正しい判断」を壊すことがある

ベテランが戸惑うのは、AIが間違った答えを出すからではありません。 むしろ、「理屈としては正しいけど、現場ではそれじゃない」こう感じる瞬間です。

AIは、ルールに忠実で、過去データに基づき、一貫性があります。 でも現場では、今日は天気が違う、この取引先は癖がある、今回だけは急ぎ、こうした「微妙な違い」が日常的にあります。

ベテランは、そこを無意識に補正してきました。 AI導入は、この無意識の補正を表に引きずり出す作業でもあります。


壊れているのは「人」ではなく「順番」

AI導入がうまくいかない現場では、こんな進め方をしてしまいがちです。

  1. 便利そうなAIを入れる
  2. 既存業務を当てはめる
  3. ベテランに「使い方」を聞く

これだと、ベテランの頭の中にあるものを、いきなりAIに移植しようとする形になります。 当然、うまくいきません。

壊れているのは人ではなく、設計の順番です。


tugiloがやっている「痕跡の可視化」の進め方

tugiloでは、ベテランのやり方をそのままAI化しようとはしません。最初にやるのは、これです。

  • 判断は人のまま
  • 記録と整理だけをAIに任せる

たとえば、

  • 何を見て判断したか
  • どこで迷ったか
  • 例外だった理由は何か

これをログとして残す。判断を奪わず、判断の痕跡だけを可視化する

この段階では、AIは「正解を出す存在」ではありません。整理係です。

tugiloがベテランと進めるときの3ステップ
  1. まず「いつもやっていること」を話してもらう … AIの話はしません。業務の流れを聞くだけ
  2. 「ここで迷うことある?」を聞く … 判断のポイントがどこにあるか、言葉になっていない部分を探す
  3. 「そのとき、何を見て決めてる?」を聞く … 判断の材料を、記録できる形にしていく

この順番で進めると、ベテランは「自分のやり方を否定されている」と感じにくく、自然に言語化が進みます。

「判断の痕跡を残す」と言っても、いきなりログや記録の仕組みを整える必要はありません。 最初は、ベテランが「ここで迷った」「今回はこう判断した」とメモを残す場所を1つ用意するだけでも十分です。

それを見返しながら、「なぜそう判断したか」を一緒に言葉にしていく。 その繰り返しで、暗黙知は少しずつ形式知に変わっていきます。


ベテランの価値は、むしろここから上がる

この進め方をすると、面白い変化が起きます。

  • ベテランの判断が言語化される
  • 若手が「考え方」を学べる
  • 属人化がゆるやかにほどける

結果として、ベテランがいないと回らないベテランがいると精度が上がる状態に変わっていきます。 AIは、ベテランを置き換える道具ではありません。ベテランの価値を共有可能にする道具です。

tugiloの相談現場でも、ベテランの判断を「整理係」として記録する形に変えたあと、「若手が相談しやすくなった」「同じ質問を何度もされなくなった」という声をよく聞きます。 ベテラン本人も、「説明する負担が減った」と感じるケースが多い。 置き換えるのではなく、共有可能にすると、両方が楽になります。


相談の場でtugiloが「要注意」と判断する場合

ベテランがAI導入に戸惑っている現場では、次のような状態になっているケースをよく見かけます。

  • 「ベテランにマニュアルを書いてもらおう」から入っている → ベテランは言語化が苦手なことが多い。まず「話してもらう」形から始めることを提案します。
  • 「AIの出力をベテランにチェックしてもらう」だけで終わっている → チェック基準が言語化されていないと、属人化が進むだけ。何を見て判断しているか、記録するところから入ります。
  • 「ベテランが使わないから広がらない」と感じている → ベテランに「使わせる」のではなく、ベテランの判断を「残す」設計に切り替えることを提案します。

判断を奪わず、痕跡を残す。この順番に変えると、ベテランの抵抗感はかなり減ります。

「ベテランがAIを使わない」と感じるとき、現場では「AIに判断を委ねる」設計になっていることが多いです。 ベテランは、自分より劣ると感じる出力を信用しづらい。

逆に、「判断は自分のまま、記録と整理だけAIに任せる」形にすると、ベテランは「自分の仕事を手伝ってくれる」と受け止めやすくなります。 tugiloでは、この「委ねる」と「手伝ってもらう」の違いを、設計の段階で分けるようにしています。


AI導入は「人の扱い方」が9割

AI導入の成否は、技術よりも人で決まります。

  • どこまで任せるか
  • どこは任せないか
  • 誰の判断を尊重するか

これを間違えると、現場は静かに疲れていきます。

「ベテランにAIを使ってもらう」ではなく、「ベテランの判断をAIで残す」という発想に切り替える。 これだけで、進め方が変わります。

tugiloの相談でも、この切り替えをした現場では、ベテランが自然に参加し始めるケースをよく見かけます。 奪うのではなく、残す。その順番が、人の扱い方の核心です。


まとめ

AIは、正しさを作る道具ではありません。回り続ける仕組みを作る道具です。

次回は、「AIは8割で動かす。毎回違う仕事は、あとから育てる」という、運用設計の話を書きます。


tugiloから一言

私たちは、ベテランの判断を奪うのではなく、その「痕跡」を可視化するところから始めます。判断は人のまま、整理だけをAIに任せる。その順番が、現場の混乱を防ぎます。

AI導入でベテランの活かし方にお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。